誰よりも大切な人
血の染みがたくさんある黒い隊服に身を包んだ少女の前に銀髪の同じ隊服を着た男が立つ。
その男の前には銃やナイフで武装した男がたくさんいた。
「…う、るさい、ま、まだやれるって!…っ!」
本調子でないの身体を激痛が駆け抜ける。
ヴァリアー暗殺任務の真っ最中。
スクアーロとで任務に向かったが、は朝から調子が悪い。
そのうえ警備の者にまで見つかり、危ない状況だ。
分担して敵を倒していくが、キリがない。
はもう身体が悲鳴をあげている。
「ダラダラ血ィ流しながら言っても説得力ねぇぞぉ!!」
無駄口を叩きながらもスクアーロは雑魚を薙ぎ倒していく。
もそれに負けじと体を無理矢理動かす。
「うるさい、って、言ってん、でしょ!!」
向かってきた敵に鳩尾に蹴りをいれ、後ろの敵には銃を一発お見舞いしてやる。
その間にスクアーロは剣を縦横無尽にふるい、数を減らしていく。
それを何度も繰り返すが数は一向に減らないなか、
血溜まりだけが広がっていく。
「ちょ、っとこれはヤバいかもね…」
体力があるとはいえ、たった2人で終わりが見えない戦いはさすがに無理なのだろう。
段々と口数が減っていった。
と、突然スクアーロがどす黒い血溜りを踏みにじるかのようにしての目の前に立った。
何事かと思い、顔をあげたのかすんだ視界がべっとりと血のついた銀髪をとらえる。
「死ぬんじゃねぇぞぉ」
スクアーロのその言葉に驚き、目を見開く。
頭から流れ出した血が目に入ってしみるのも構わずに、後姿を見つめる。
死ぬな、なんて暗殺部隊…ましてやヴァリアーの幹部が言う台詞じゃない。
頭でもイカれたのだろうか。
が聞き返す前に、心を汲み取ったかのように答える。
「にしかこなせねぇ任務があるってあいつが言ってたんだぁ」
意識の朦朧とした頭では、それがすぐに嘘だとは気付けず、は納得した。
「そー、いうこと。じゃあ…帰らないと、いけないわけ、ね。」
「ああ」
とはいえ納得はしたものの、護られているのはどうかと思い、地面に張り付いていた片足を持ち上げる。
生まれたばかりの仔馬のような足取りで立ち上がり、銃を取り出す。
残っている弾は、ない。
ちっ、と舌打ちして真正面から向かってきた敵に銃を投げつける。
相手の頭にクリーンヒット。
が、それに気をとられている隙に横から新たな敵が迫ってきていた。
その手にはミリタリーナイフ。
まっすぐに、急所を向いている。
終わった。
そう思った瞬間、どこかのドラマか漫画のように、敵の体を銃弾が貫いた。
呆気にとられている隙に、他の奴等もバタバタと倒れていく。
スクアーロが何かしたのかと思って見るが、彼もぽかんと口を開けて状況を飲み込めずにいた。
その間にも、銃声と共に奴等は倒れていく。
近くに生きている者はスクアーロとだけ。
遠くにはこちらに向かってくる者もいるが、倒されていく。
それでも沸いて出てくる状態に若干おののきながらはスクアーロの隣に立った。
「何、これ」
「…わからねぇ」
2人で周囲を見渡す。
忘れていた激痛が、の全身を駆ける。
それに気付き、スクアートがよろけたを抱きとめた。
そして、スクアーロの目が一点で止まった。
「あいつらかよぉ…」
溜め息をつくスクアーロの視線の先を辿ると、そこには戦隊ヒーローのように立っているヴァリアー幹部のメンバーがいた。
ザンザスがつまらなさそうに銃を連射。
他も思い思いに殺しを楽しんでいる。
遊び気分かよ。
そう心の中でツッコむ2人にルッスーリアが手をぶんぶんと振る。
「ほらーっ!!早くこっち来なさーい」
2人で顔を見合わせ軽く溜め息を吐き、はスクアーロの肩を借りて皆のもとへ向かう。
無駄に距離がある死体だらけ道のりを、血で染めながら歩く。
は掠れた声で訊ねた。
「ね、なんで死ぬな、って言ったの?」
無理に声を出した所為で咳き込み、口から血が溢れる。
それに驚いてスクアーロが慌てて口を開いた。
「しゃべんじゃねぇ。
……なんでもねぇよ」
顔を逸らすスクアーロの顔を訝しげに見て、あっそと声を漏らした。
*
ザンザスたちのもとへ着くと同時に、2人は力尽きてその場に倒れこんだ。
それを呆れた顔のルッスーリアとゴーラの良い子コンビがアジトまで運んだ。
目を覚まし傷が癒えた2人はザンザスにぶん殴られ、さんざんお説教をくらった。
その帰り、部屋に戻る途中に2人は話の続きをしていた。
「あのさー、あれ、なんでもない、って言ってたけどなんかあるんでしょ?」
突然切り出され、スクアーロはびくっとはねた。
「いい、いや、なんでもねぇぞぉ」
はうろたえる様子をにたりと厭らしく見つめ、スクアーロの前に回りこんでしつこく訊く。
「いーや、絶対あるっしょ?
さあ、吐きなさい!」
はあ、と観念したようにため息を吐くと、重い口を開いた。
「お前に死んでほしくなかったからだぁ…」
ぽかん、とするの横をとおりすぎる。
距離が少しあいてからやっとが振り向いた。
「ちょっと待ちなさい!
私はその理由を訊いてるの!!ってこら!!逃げるな!!」
病み上がり2人の鬼ごっこが始まった。
20080702