がつくったのがいい!」




彼氏>彼女









優雅に舞っていた桜の花びらが、少年の叫びに驚いたように乱舞した。

わいわいと賑やかな休み時間の教室とは裏腹に、窓一枚隔てた外は別世界のように見える。
朝、先生が撒いたであろう水が、花びらに乗ってきらめきながらアスファルトに舞い降りる。
ときたま教室へ入っては、窓際の机を彩っていた。

向かい合って座る男女が共有する机にも、一枚の淡いピンク色の花びらが降りてきた。


「やだ。そんな時間が何処にあんのよ?」

「うっ…。俺が手伝う」

「それじゃ意味ないし」


必死な少年と、それを軽く受け流す少女。
2人がナニでそんなに熱くなっているのかというと、


「いーじゃん、俺の誕生日なんだから!」


ブン太の誕生日のケーキの話。

果てしなく友達に近い恋人、という微妙な関係の2人はケーキを買うか作るかという問題でもめていた。
なんとも平和なものだ。


「ブン太あそこのケーキ好きじゃん。あそこで良くない?」

「良くない!」

時間がないは市販のもの、ブン太は手作りが良いという。
ブン太は断固として譲らない気だ。

それには呆れたように息をついた。


「何でそこまでこだわるの?」

後ろを向けた椅子の背もたれから背を離し、机に肘をついて訊ねる。
と、ブン太は何故か顔を少し紅潮させて目を逸らした。
それをは不思議そうに見つめると、何かわかったのか、にんまりと笑った。

「そっか、彼女らしいこと私、してないもんね」

「おまっ・・・!!!
 ・・・別にいいだろぃ」


ガタンっと立ち上がるが、発する言葉がないので更に顔を赤くさせて座りなおした。

は相変わらずニヤニヤしている。
そーかそーか。
ブン太は可愛いなー。

そんなことを考えながら、首を傾げてブン太を見上げる形で言った。


「時間かかっても良いなら、可愛い可愛いブンちゃんの為に頑張るけど?」

それを聞いてブン太は嬉しそうに笑いながら勢いよく立ち上がる。

「マジで!?やったぜぃ!時間かかっても全然へーき!」


よっしゃあ!とニコニコとするブン太をは微笑ましそうに見つめていた。

――ほんとに可愛いなぁ。これで同い年なんて信じらんない。






**


「時間かかるけど良いんだね?」

色々と道具を準備しながら、わくわくしているブン太に確認する。
ブン太は汚れのない笑顔で、首を縦に振る。

「ん、じゃあ大人しく待っててくれる?」

「もちろんだぜぃ!」

ブン太はそういうと、キッチンから去った。


丸井家のキッチンを借りて短時間で作る!
それがブン太の恋人である私のミッション。
物凄く簡単な作り方でやれば短時間で焼きあがるハズ!
デコレーションに時間が掛けれるようにしなくては。


、いっきまっす!!!




**



日が傾いて、もう沈みかけた頃。
部活が今日なかったのが幸いだ。

そう思いながらを待っていたブン太だったが、だんだん眠くなってきたのか、瞼が重くなった。
そしてあっという間に、眠りに落ちていった。




**




なんとか早く終わらせ、出来たケーキをブン太の部屋へ持ってきた。

「ぶーんた?」

ノックをしても返事がない。
悪いと思いながらもドアを開けてみると、すーすーと規則正しい寝息をたてて、ブン太が寝ていた。


ああもう可愛い寝顔しちゃって!
彼女の私より可愛いなんて何事だ!
・・・なんか私がナルシストみたいだなー。

ぐるぐると愛おしさとちょっとの嫉妬が頭を駆け抜けるが、近くにそっとケーキを置いた。
テーブルに頭を預けているブン太の隣に腰を下ろして、赤い髪をくしゃりと撫でる。
女の子のような寝顔を見て、の顔が少し翳る。


なんかなー。
やっぱり彼女より彼氏の方が可愛いって何かアンバランスだよね。
私とブン太じゃ、「恋人」は無理かなぁ。
絶対不釣合いだよね。

「これでもそれなりに努力してるんだけどね」


ぽつりと漏れた声で目が覚めたのだろうか、ブン太が身じろぎした。
この距離はまずいと思って慌てて離れようとするが、ブン太の手がの腕をつかんだ。
驚いて、ブン太の方に顔を向けると下から顔を覗き込まれた。




の方が可愛いと思うぜぃ?」




寝ぼけているのか、心を見透かしたのか。
寝起きでほわほわとした空気を周りにふりまきながら、にぃと笑った。

曇っていたの顔が晴れた。


「ブン太の方が可愛いじゃん。ばかやろーっ」


和やかな空気が流れる。
が、ブン太がケーキを見て覚醒し、その空気は打ち破られた。


「ケーキ!!!
 、サンキュー!」


笑顔を振りまき、今にもケーキに食いつかんとするブン太を、慌ててとめる。

「ストップ!
 先に晩御飯食べなさいって言ってた。」

ブン太の母親からの伝言を伝える。
その途端に不機嫌そうな顔になった。
だがはそれをものともせず、ケーキを取り上げた。

「ほら、行くよ」

「あっ、ちょっ!!」


ケーキを持ったまま部屋を出ると、飼い主についてくる犬のようにの後ろにブン太がくっついてきた。
イチゴ1つだけでも取ろうとするブン太から逃げるように、は小走りで数歩進み、途中で振り返った。






「我慢したらあとでプレゼントもあげる!
 だから我慢しなよっ!」

「・・・我慢するぜぃ・・・」


20080422