「ボス、は?」

「…部屋だ」

「そ」




雨戦の痕






さっきの雨戦で、スクアーロが鮫に食われ、チェルベッロにも生存は否定された。
そんなこと、オレたちは慣れてるから誰も涙を流したりはしない。
ボスだって笑ってたしね。

だけど、1人、例外がいた。
今、オレはそいつの部屋に向かっている。
少しで、その部屋には辿り着けて、ドアの前で立ち止まり、ノックする。

、いる?」

中からは鼻をすする音。
少ししてから、返事があった。

「ベル…?いい、よ。入、ってきて」

言葉が上手く繋げれていないうえ、声も震えている。
…やっぱり、泣いてたんだ。

じゃ、入るよ、と言ってドアをガチャリと開ける。
部屋に一歩足を踏み入れ、部屋の主を探して視線を漂わせた、がすぐに見つけれた。

むかって左側にベット、右側にデスクがある。窓は、ない。
本人は、その間で、壁側を向いてぺたんと座り込んでいた。
そして、オレが入ってきたことにやっと気づいたのか、こちらを振り返る。

オレを見つめる目は、充血して真っ赤だった。
そして、苦笑していた。
でも、その苦笑すら無理しているように見える。

…」

思わず、声が漏れた。
はそれに返すように、微笑んだ。

その微笑は、嬉しさなんかじゃなくて、自嘲。

「へへっ…もう、涙が止まんないの」

辛そうな、苦しそうな、顔をする。
オレも、つらい、苦しい。

その涙は、がどれだけスクアーロを想っていたのかがわかる。
その『想っていた』が恋愛感情じゃなくても、オレはつらい。

「聞くよ?」

「え…?」

オレが言うと、何を?というように首を傾げながらこっちを見る
オレはそのまま、部屋の中心にいるの前にしゃがみこんだ。

「なんでも、聞くからさ。なんか話してみたら?」

なんて言ったらいいのかわからなくて、自分でもわけのわからない言葉になった。
だけど、には通じたらしく、さっきの笑みとは違う、やわらかい微笑みを返してくれた。

「ありがと、ベル。じゃあ・・・少し、聞いて」

そして、ゆっくりと口を開いた。

「こういうことは絶対ある、って思って、ちゃんと、覚悟して、入隊した…はずなんだ。
 なのにね、どうしてだろう。覚悟、出来てなかったのかな…?
 すごく、苦しい。すごく、悲しいよ…。
 入隊したときの、あの覚悟は、嘘みたいに、すごく、すごく・・・つらい。
 スクアーロがいなくなっちゃった瞬間。あれが、まだ目を閉じれば思い出せて…。
 お兄ちゃんみたいで、大好きだったんだ、スクアーロ。
 いなくなっちゃったのも、まだ、信じられない。

 こんなんがいちゃ、ヴァリアーも駄目になっちゃ、うよね・・・・・・
 きっと、他の皆がこういうことになったら、また、私、泣いちゃう。

 私、この部隊…抜けた方が、いいの、かな?」


一字一句、しっかりと噛み締めるように話してくれた。
その内容はすごく重たい。
覚悟があったのは、根拠もなんにもないけど、多分、本当だと思う。
だけど、予想外に仲間を・・・・好き、になったんだと、思う。
勝手なオレの推測だけどね。

でもそれより、オレは、スクアーロが大好きだった ということが軽くショックだった。
恋愛感情ではないのに、すごく、心に突き刺さった。

だけど、は頑張ってオレに話してくれた。
だから、オレもちゃんと返事を返す。

話してくれたことの中、唯一疑問系だった、部隊を抜ける、ということ。

「個人的には、に部隊を抜けてほしくない。
 ヴァリアーの隊員としても、抜けてほしくない」

落ち着いて、きっぱりと言い切れた、と思う。
オレの返事には涙目で不思議がる

「なん、で?」

「まず、ヴァリアーの隊員として。
 は戦力にもなるし、こういうことは…あんまりないだろうし。皆結構強いからね。
 だから、そのままでいいと思う。」

オレが言い終わると、は弱く微笑していた。
何も、言わないようなのでオレは続ける。

「次、個人として。
 が好き。・・・・・それだけなんだけどね」

…自分で言って、恥ずかしくなった。
…これ、もしかして一種の告白…?
うわ、なに言ってんだろ、オレ…。

も、目を丸くして固まっていた。
驚きに満ちた顔が、徐々に紅くなっていく。

「あ、その…ありがとう。」

少しもごもごしながら、下を向きながらも、お礼は言ってくれた。
でも、次の声はちゃんと、はっきり、していた。

「…ほんとに、本当に…勝手なんだけど、ベルがそう言ってくれるなら、さっきの考え、やめようかな
 って思うの。
 えへへっ……ごめんね、ほんとに、すっごく、自分勝手で。
 だけど、ベルの言葉、凄く嬉しいから…」

薄く、苦笑しながらも、顔はこっちに向いていた。
勝手でも、オレの言葉を嬉しいって言ってくれたこと、部隊を抜けないこと、それがオレには凄く、嬉しかった。
だけど、それは全部伝えきれないから、とりあえず、嬉しいってことだけでも伝えた。

「そっか。うん、なら、よかった」

うん、ごめんね、といいながらも、は笑って返した。

「あ、あと…」

なにかを思い出したように、呟くと姿勢を正した。
・・・なんだろ・・・。

「私も、好きだよ、ベルのこと。
 だからね、ほんとは一番嬉しかったの、ベルが私のこと好きって言ってくれたことなんだ。」

へへっと、笑いながら言ったけど、あとから、顔を紅く染めていた。
・・・・・って、え・・・?

「そ、そうだったの!?」

思わず声を上げてしまった。
聞いた瞬間は、が言ったことが頭になかった・・・。

「うん」

でも、はにっこり笑って返してくれた。

「あ」

でも、すぐに表情を変えた。
スクアーロのこと、思い出したのかな…。

「ベルは…いなくなっちゃ、絶対、嫌、だからね…?」

弱弱しい、声だった。
だけど、その内容がすごく嬉しくて、オレの服の裾をつかんだ手を、握り返した。

「いなくならないよ。オレ王子だし。・・・・それに、スクアーロも生きてるっしょ」

「うん。ほんとに、ありがと、ベル」

頭をオレの胸に預けてきたから、
を、抱きしめてやった











2007/02/07